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1坪の奇跡

2011/02/09

1坪の奇跡
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1坪の奇跡 

40年以上行列がとぎれない吉祥寺「小ざさ」味と仕事
稲垣篤子/著
出版社名 ダイヤモンド社
出版年月 2010年12月
ISBNコード 978-4-478-01363-2
(4-478-01363-2)
税込価格 1,500円

[要旨] 羊羹を練り続けて半世紀以上。「紫の一瞬の輝き」を求めて、今日も指先の神経を研ぎ澄ます。小さな屋台から始まった吉祥寺「小ざさ」物語。生涯現役!78歳の処女作。

[目次] プロローグ 40年以上、早朝からできる行列の裏側で;第1章 2品だけの究極の味を求めて;第2章 たった1坪の店で;第3章 私の仕事観を形づくった出来事;第4章 屋台からの「小ざさ」創業;第5章 父から娘へ;第6章 障がいのある子どもたちと共に;第7章 次代に伝える;エピローグ 125歳まで現役で―


稲垣 篤子 (イナガキ アツコ)
東京・吉祥寺にある和菓子店、「小ざさ」社長。1932年、東京都生まれ。1956年、東京写真短期大学(現東京工芸大学)卒。1951年11月19日に吉祥寺で父が「小ざさ」を創業。当時、畳み1畳の屋台の店で、19歳時から1日12時間、365日休みなく、団子を売り始める。1954年、現在の店舗がある吉祥寺のダイヤ街に移転後、品数を羊羹ともなかの2品(現在、羊羹1本580円、もなか1個54円)に絞る。以来、現在も羊羹を練り続けている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

プロローグ40年以上、早朝からできる行列の裏側で

一九五一年一一月一九日。その年の春に高校を卒業したばかりの私は、畳み一畳分し
かない屋台に、買ったばかりの濃紺のスーツを着て、たったひとりで立っていました。
東京・吉祥寺の七号通り、現在のダイヤ街の外れです。
場所は市からの借り物で、建物を建てることができません。
私は毎朝、柱や土台の木材を一本一本運んできては組み立て、夜になるとまた一本残
らず片づけて帰るのです。
本当に小さな掘っ建て小屋で、売り物の団子を入れたガラスのショーケースだけが建
物に比して立派すぎるほどでした。
開店時間は朝八時から夜八時まで。三六五日、一日の休みもありません。
身動きが取れないほど狭い店のなかで、一二時間立ちっぱなしというのはとても辛い
ものでしたが、父がつくったこし館の団子を一生懸命売りました。
日本はすでに戦災の傷跡から立ち直りつつありました。
でも、私の立つ屋台だけはその復興から取り残されているかのようでした。
これが、小ざさの創業時の姿でした。
その年の=一月、吉祥寺に雪が降りました。
大粒の雪は降りやまず、夏も冬も同じ一張羅のスーツ姿の私の体は冷えきっていまし
た。
夜八時すぎ、いつものように屋台の柱や土台を一本一本担いで道路を渡り、ショーケ
ースを引っ張って、いつも置かせてもらっている花屋さんの敷地に片づけました。
雪で湿った木材は冷たく、そしてずっしりと重くなっていました。
お団子が売れて空になった銀盆を入れた番重(和菓子を運ぶ木の箱)を自転車の後ろ
に乗せ、私は自転車を手で引いて家路につきました。
うつむきかげんで、黙々と自転車を押し続ける私の頭や肩に、雪は容赦なく降り積も
ってきます。
寒くて、寒くて、身が凍りつきそうでした。
家まで二〇分ほどのいつもの暗い道が、それはそれは長く感じられました。

本書 2〜3Pから引用

 
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